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名古屋地方裁判所 平成8年(ワ)2624号 判決 1997年11月28日

ベルギー国二三四〇ビールセトウルンホウト・セバーン三〇

原告

ジャンセン・ファーマシューチカ・ナームローゼ・フェンノートシャップ

右代表者

ダークコーリエ

右訴訟代理人弁護士

吉利靖雄

同右

品川澄雄

右復代理人弁護士

滝井朋子

名古屋市東区葵三丁目二四番二号

被告

大洋薬品工業株式会社

右代表者代表取締役

新谷重樹

同市千種区内山三丁目三二番二号

被告

堀田薬品合成株式会社

右代表者代表取締役

堀田和正

同市西区児玉一丁目五番一七号

被告

マルコ製薬株式会社

右代表者代表取締役

小島茂雄

被告ら訴訟代理人弁護士

内藤義三

同右

田倉整

被告ら輔佐人弁理士

高田修治

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告らは、別紙物件目録記載の物件を有効成分とする医薬品を製造し、該医薬品を販売してはならない。

二  被告らは、被告らの所有する別紙物件目録記載の物件並びにこれを有効成分とする医薬品を廃棄せよ。

三  被告らは、被告らの申請によってなされた薬事法に基づく別紙物件目録記載の物件を有効成分とする医薬品に対する製造承認につき厚生大臣に対し製造承認の整理届を提出せよ。

四  被告らは、厚生大臣に対して、前項の医薬品について健康保険法に基づく薬価基準収載の削除願を提出せよ。

五  被告らは、原告に対して、被告らが別紙物件目録記載の物件を有効成分とする医薬品について厚生大臣の製造承認を得るために同医薬品を用いて試験を行って得た試験データ及びその他の資料を引き渡せ。

第二  事案の概要

本件は、医薬品の有効成分等の特許権者であった原告が、特許権の存続期間が満了した後に、被告らに対し、右特許権の特許請求の範囲に該当する物を含有する医薬品の製造・販売の差止等を求めた事案である。

(争いのない事実等)

一1  原告は、次の内容の特許権を有していた(以下「本件特許権」という。)。

特許番号 特許第一三六四八九五号

発明の名称 新規な1-(ベンゾアゾリルアルキル)ピペリジン誘導体

出願日 昭和五一年七月一九日

出願番号 昭五一-八五二一六号

優先権 一九七五年七月二一日及び一九七六年五月一七日の米国特許出願に基づく優先権

公告日 昭和六一年七月一七日

公告番号 昭六一-三一一〇九号

登録日 昭和六二年二月九日

特許請求の範囲 別紙特許請求の範囲記載のとおり

2  別紙特許請求の範囲第1項ないし6項及び9項の発明は、いわゆる物質発明又は右物質発明の用途を制吐剤とするいわゆる用途発明である(以下「本件特許発明」という。)。

そして、本件特許発明の一般式に関して、別紙物件目録記載の式で示す化合物は、一般名を「ドンペリドン」といい、強い制吐活性を有し、それを含有する医薬品は慢性胃炎、胃下垂症、胃切除後症候群等の疾患に対して細粒、錠、ドライシロップ、座剤として用いられる。

3  原告は訴外協和醗酵工業株式会社にドンペリドンの原末を輸出し、又は同社をしてこれを製造せしめ、同社はドンペリドンを含有する各種製剤を広く市販している。

二1  被告らは、本件特許権の存続期間中に、薬事法一四条、同法施行規則一八条の三により医薬品の製造承認申請をするため必要とされている各種試験を行うため、ドンペリドンを含有する医薬品(以下「本件医薬品」という。)を試作し、本件医薬品を右各種試験に使用することにより、試験結果を得た(なお、ドンペリドンの原末について、原告は被告らが製造又は輸入したと主張し、被告らは自分達は輸入することなく第三者から購入したと主張している。)。

そして、被告らは、右試験結果を用いて本件医薬品について薬事法に基づく厚生大臣に対する製造承認の申請をなして製造承認を取得し、更に、健康保険に用いられる保険薬として承認を得るため、健康保険法に基づく薬価基準収載への申請を行い、平成八年七月五日、薬価基準収載を受けた。

2  平成八年七月一九日に、本件特許権の存続期間が満了した。

3  被告らは、平成八年七月一九日以降現在に至るまで、それぞれ本件医薬品を製造・販売している。

(争点)

一  特許権者であった者は、特許権の存続期間満了後も、他人が特許請求の範囲と同一の物を製造・販売することを差し止めることができるか。

二  医薬品に関する特許権の存続期間中に、後発医薬品メーカーが、薬事法上の医薬品の製造承認を得るために特許請求の範囲に含まれる物を使用することは特許権侵害に当たるか。

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点一について

(原告の主張)

1 妨害排除請求権

本件において、被告らが、現に、ドンペリドンの化合物を有効成分とする本件医薬品を製造し販売しうるのは、被告らが、本件特許権の存続期間中に、薬事法に基づく製造承認を得るに必要な資料を用意するために、ドンペリドンを用いて、製造承認を得るに必要な種々の試験を行い、試験結果を収集したことに起因するのである。

しかし、右試験は、特許法(以下「法」という。)六九条の定める「試験又は研究」に該当せず、特許権の存続期間中にそのような試験を行うことは、特許権を侵害する行為である。

したがって、第三者が、医薬品の発明を対象とする本件特許権を侵害することなく、法を遵守して平穏にその対象発明の実施品たる医薬品を製造・販売しようとするならば、特許権の存続期間満了後に、初めて、製造承認申請の前提となる試験を開始し、事後、薬価基準の収載が可能となるに至るまでの手順を経なければならず、そのための所要期間は、現在、二七か月を下らないものとなっている。

そうだとすれば、原告の如き特許権者は、現行法体系全体の中から生じてくる法的利益として、特許権の存続期間満了後といえども、さらに二七か月の間は、本件特許発明の実施品である医薬品を独占的に製造販売することのできる利益を有しているのである。

このことは、医薬品に関する特許権に限らず、特許発明技術の実施によって経済的利益を得るためには、事前に、同じく特許発明の実施行為である準備行為が不可欠であるという場合にも、特許権の存続期間満了と同時に、その経済的利益を伴う特許発明実施をなし得る者は、特許権者のみであることと同じである。

そして、本件特許権者である原告が、本件特許権の存続期間中、その妨害排除請求権をもって被告らの特許権侵害行為の差止めを求めることができることはいうまでもないが、さらに、特許権者である原告が取得したこの妨害排除請求権は、右法的利益享受期間、妨害の存在し継続している限り存続するのである。なぜなら、そうでなければ、特許権という準物件の有している、対象物の完全かつ円満な利益収益という本来の目的を達成し得ないからである。

本件で被告らによる本件特許権に対する妨害行為は、本件特許権の存続期間の満了後も、少なくとも二七か月にわたって継続しているのであるから、この特許権によって保護されている法益の侵害行為に対する原告の妨害排除請求権は、この妨害状態の存続している期間、存続していると解しなければならない。

このように解してこそ、特許権という私権のみならず、特許法の予定する産業的取引社会の公正な秩序を維持することが可能となる。

2 不当利得返還請求権

原告は、本件特許発明につき、その完成と同時にこれを独占的に管理し、さらに、本件特許権の存続期間中は法律上独占的な占有権限に基づき、これを独占的に占有し続けてきたものである。

被告らは、遅くとも、本件特許権の存続期間満了時の二七か月前から、何ら法律上の原因なくして、右の事情を十分に知悉しながら、本件特許発明を実施して他人の財産である原告の右の独占的な占有を侵奪して、これを喪失するという損失を原告に生ぜしめ、よって行政上の製造承認及び薬価基準収載を取得し、これに基づいて本件医薬品を製造販売しうるという有利な地位を得た。

したがって、被告らは、悪意により、法律上の原因なくして、原告の本件特許発明に対する独占的占有を二七か月間にわたって侵奪して、他人である原告に右の独占的占有喪失という損失を及ぼし、これによって自ら製造承認、薬価基準収載及びこれに基づく本件医薬品の製造販売可能な地位という利益を受けたものであるから、その不当に取得した利得のすべてを返還すべきである。

そして、この場合に被告らが原告に対し返還すべき利得とは、有体物の返還方法として一般法理の承認する原物返還と同一の満足を与えること、即ち、その発明の占有が侵害されたことの明白な期間、即ち、少なくとも二七か月の期間において、被告らの占有侵奪がなされなかったと同一の状態を原告が回復できることでなければならない。それは即ち、被告らが右の違法な占有侵奪をなさなかったとすれば生じていたはずである状態を再現すること、換言すれば、右占有侵奪によって取得した製造承認及び薬価基準収載手続を一旦白紙に戻し、もって被告らが本件医薬品を製造販売することのできない地位に戻ること、したがって具体的には、侵奪期間と同一期間である二七か月間について本訴請求が許容されることに外ならないというべきである。

(被告らの主張)

1 妨害排除請求権について

特許権は、排他的独占支配権であって、物権的請求権など物権に準じた法的効力を有することは疑いがなく、物権法定主義の類推による権利内容の公示の要請と発明者の利益と公衆の利益を考慮して産業政策上至当であると決定された存続期間の趣旨等に照らし、その効力については特許法の明文の規定に忠実に従って解釈すべきである。

原告が有していた特許権は、存続期間の満了により消滅したから、物権から流出する物権的請求権が物権の消滅によって同時に消滅するように、原告主張の差止請求権も特許権の消滅と同時に消滅した。

したがって、法律の明文の規定もなしに原告が主張するような現行法体系全体の中から生じるものとして差止請求権が存続期間満了後も残存するような解釈をすることは許されない。

さらに、特許権者が特許権の存続期間中、その製品について開発に必要な経費その他を独占を理由として価格に反映させている現状に鑑みれば、排他的独占権を権利消滅後も認めることは、特許権者に法律が保護する以上のものを不当に与えることに他ならず、その弊害は多い。

2 不当利得返還請求権について

日本法の解釈としては、不当利得は原物返還を原則としつつも、それが不可能、困難なら金銭補償であると解されている。そして、役務の提供等無形の場合については、金銭補償であると解されている。

原告の主張によれば、本件で権利者の同意なく「試験又は研究」を行ったこと自体が不当利得の原因たる行為であり、この場合の原物返還をそのまま想定すれば、被告らの特許権を同意なく原告に「試験又は研究」させることになろうが、もちろんそれは無意味であり、条理にも適合しない。

したがって、仮に被告らの行為を違法とする考え方をとったとしても、同意に要する通常の金銭、即ち実施料相当額の金銭補償の問題が残るだけである。

原告は、ある期間違法に侵害していたならば、本来合法に実施できる期間においても、侵害期間と同じ期間実施させないことが原物返還であるとするが、なぜそれが原物返還になるのか、さらには不当利得としてなぜそのような義務を負わせなければならないのか理由がなく、かつ、そのような結論が占有侵害論から出てくる理由も明らかでない。

また、不当利得において返還の対象となる受益については、本人の損失との間に直接の因果関係が存在することが要件である。この点からも、原告の主張は失当である。

二  争点二について

(原告の主張)

被告らは、本件特許権の存続期間満了と同時に本件医薬品の製造販売をなすため、本件特許権の存続期間中に、行政庁による製造承認及び薬価基準収載という行政処分を得る目的で、本件特許発明の実施品である医薬品を製造又は輸入し、これを使用して本件医薬品を製造し、試験を行い、もって本件特許権を実施した。

そして、右試験は、医薬品を製造販売するのに不可欠の行為であって、その製造販売行為の端緒であるから、業としての行為にほかならない。

また、被告らが行った試験は、既にその活性成分の有効性と安全性が公知であり確立されている先発医薬品と同じ活性成分を含んだ製剤が、先発製剤と同等性を有することの資料を得るものであるにすぎず、いかなる意味においても、その特許発明技術をさらに技術的に進歩せしめる目的を有するものではあり得ない。したがって、被告らが行った試験は、「試験又は研究」(法六九条)に該当しないものである。

したがって、被告らが行った行為は、本件特許権を侵害するものであり、特許権侵害行為は特許権侵害であるが故に、常に違法である。

(被告らの主張)

1 被告らの行為は「業としての実施」に当たらないこと

(一) 本件特許発明は、「制吐剤」等の医薬品としての作用効果ゆえに進歩性が認められ、発明として特許登録されたものと考えられる。しかし、被告らは、医薬品の製造承認の関係から、「生物学的同等性」試験等に供する目的で、他者から購入したドンペリドンを用いて本件医薬品を製造承認に必要な最小量だけ試作し、右試験等に供したものであり、その中では「制吐剤」としての試験は行っておらず、試作もその限度のもので、「制吐剤」としての製造ではない。

したがって、被告らの本件医薬品の試作及び試験行為は、発明対象物の使用とはいえない。

(二) 特許法は、発明を奨励し、もって産業の発展に寄与することを目的とするものであるから、そのために認められた特許権による排他的独占権も、産業上の利益確保のための権利にすぎない。即ち、特許権は、その排他的独占権により、権利者自ら製造販売等をするか、あるいは他人が製造販売することを許諾することによる有効期間中の経済的利益を保障しようというものにすぎず、経済的な利益の面で実害のない他人の行為を禁止する必要は全くないと考えるべきである。

したがって、「業としての実施」といえるか否かも、他人の行為によって、特許権者側に損害が発生するかどうかを検討すべきである。

本件で、被告らが行った各種試験は、特許権の存続期間満了後における医薬品の販売を目的としたものであって、特許権者に因果関係のある損害を与える余地はないという意味で、特許法における「業としての実施」ではないというべきである。

(三) また、法六七条二項の文言によれば、特許法は、特許権設定登録後製造承認申請前に行われる臨床試験が特許発明の実施に当たらないか、少なくとも「業としての実施」に該当しないことを明らかにしている。そして、先発者が行う臨床試験が業としての実施に当たらない以上、後発者が行う臨床試験をもって業としての実施に当たらないというのは当然の帰結である。

2 被告らの行為は法六九条の「試験又は研究」に該当すること

法六九条の「試験又は研究」は、科学技術の進歩に直接間接に寄与する可能性のある、即ちそのような性質の「試験又は研究」であることを要し、かつそれで足りると解すべきであり、科学技術の進歩を直接ないし主要目的とした「試験又は研究」であることは必要ではないと解すべきである。

被告らの行った各種試験は、いわゆる生物学的同等性試験といわれるものであるが、右試験にあたり、原末から実際の製品を試作する過程において、被告らは被告らなりの知見に基づいて、各種の配合物質、試作方法及び人体に対する効果などを検討し、かつ、そのようにしてできた最終試作製品が、「生物学的同等性」を得られるまで、右検討を繰り返すのである。

医薬品は、生物特にその中でも人体に作用する物であるから、例えば、化学構造式としては同一でも、配合や加工の仕方によっては人体への作用は異なる物も多いという特殊性が存在する。したがって、化学構造式が同一であるからといって、被告らの製造した医薬品と原告のそれとが同一だというようなことは到底いえないのである。

さらに、被告らの各種試験を通じて、公報には記載されていない事実について知見が得られることは当然あり得るのであり、そこから新たな発明が生じることも多いのである。

以上のように、被告らの各種試験は、企業としてこれをみれば、許認可のためという側面は否定しないものの、その内容自体は、被告らのノゥハウを動員し、種々の実験その他の試行錯誤を繰り返してする「試験又は研究」に他ならない。

第四  当裁判所の判断

一  争点一について

1  妨害排除請求権について

特許権者には、業として特許発明の実施をする権利を専有する(法六八条本文)という排他的独占権が付与されているが、その一方で、特許権の存続期間は、原則として特許出願の日から二〇年をもって終了することとされている(法六七条一項)。これは、産業の発展という観点から、発明を保護すると共に、過度な保護はかえって産業の発展を阻害するから、その保護を一定期間に限ったものと解される。

したがって、特許権が保護される期間を明文の規定もなく延長することは、産業の発展を阻害することとなり、そのようなことは特許法の趣旨からしても許されないと解される。

よって、特許権の存続期間が満了した後は、保護されていた発明は保護されなくなり、誰でも自由にその発明を利用することができることとなるのである。即ち、特許権の存続期間中に特許権侵害行為が行われた場合には、特許権者が当該特許権侵害行為について妨害排除請求権を有していることは当然であるが、一旦、特許権の存続期間が満了した後は、特許権の存続期間満了前であれば特許権侵害行為と評価されるような行為がたとえ特許権の存続期間満了前後を通じて継続して行われていたとしても、特許権を有していた者が当該行為について妨害排除請求権を有していると解することはできないのである。

原告は、第三者が特許権の存続期間中に特許権侵害行為を行い、特許権者に右行為について妨害排除請求権が発生すれば、たとえ特許権の存続期間が満了したとしても、右行為が継続している限り、特許権者であったものは、当該行為について妨害排除請求権を行使することができると主張する理由として、本件のような医薬品の特許の場合には、特許権者は、特許権の存続期間が満了した後も二七か月間は、独占的地位を保持する法的利益があるからと主張している。

しかし、原告の主張する利益が生じる原因となる薬事行政上の措置は、決して特許権者に特許権の存続期間以上の保護を与えるためのものではなく、危険な医薬品から国民の生命・身体の安全を保護するためのものであるから、このような薬事行政上の措置により特許権者が特許権の存続期間満了後も独占的地位を保持しうるとしても、それは事実上のものにすぎず、これをもって特許権者であった者の法的利益と解することはできない。

したがって、医薬品の特許権者が、特許権の存続期間満了後も独占的地位を保持しうるとしても、右地位が侵害されたことを理由として、物権的請求権類似の妨害排除請求権は発生しない。

以上より、特許権者が、特許権の存続期間満了後もなお、特許権の存続期間中であれば特許権侵害と評価される行為に対して、妨害排除請求権を有していると解することができる根拠はないから、原告のこの点についての主張は採用することができない。

2  不当利得返還請求権について

不当利得返還義務の客体については、原物返還が原則であり、利得の性質上それが不可能な場合、又は、利得したものを利得者が費消し若しくは処分するなどの理由で原物返還が不能となった場合にだけ、価格で返還するものと解されている。

原告は、被告らが、法律上の原因なく、自ら製造承認、薬価基準収載及びこれに基づく本件医薬品の製造販売可能な地位という利益を受けたものであるから、その不当に取得した利得を原告に返還すべきであると主張し、利得の返還方法として、本件医薬品の製造・販売差止め、本件医薬品等の廃棄、厚生大臣に対する製造承認の整理届の提出、薬価基準収載の削除願の提出並びに本件医薬品を用いて試験を行って得た試験データ及びその他の資料の引渡しを主張している。

しかし、原告の主張する被告らの利得の内容は無形のものであるから、その性質上、原物返還は不可能であるはずであり、原告が原物返還と同一の満足を与えるものとして主張する右返還方法は、被告らが過去に取得した利得そのもの又はその価値の返還を認める不当利得制度の枠組みから外れた独自の見解であると言わざるを得ない。

したがって、発明者は、特許権の存続期間中に、法律上の原因なく、自ら製造承認、薬価基準収載及びこれに基づく当該医薬品の製造販売可能な地位という利益を受けた者に対し、不当利得返還請求権に基づき、特許対象物の製造・販売差止請求権等を有しているとの原告の主張を採用することはできない。

二  以上より、被告らの本件特許権の存続期間中の行為が特許権を侵害するか否かを判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田武明 裁判官 森義之 裁判官安永武央は、出張中のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 野田武明)

別紙

物件目録

左式で示す5-クロロ-1-〔1-〔3-(2-オキソ-1-ベンゾイミダゾリニル)プロピル〕-4-ピベリジル〕-2-ベンゾイミダゾリノン(一般名:ドンペリドン)

<省略>

特許請求の範囲

1式

(Ⅰ)

<省略>

〔式中、

R1及びR2は水素、ハロ、低級アルキル及びトリフルオロメチルから成る群からそれぞれ独立的に選ばれ、

Bは二価の基

-N

<省略>

=N-及び-N=CH-、から成る群から選ばれた一員であり、ここでLは水素、低級アルキル、低級アルキルカルボニル及び低級アルケニルから成る群から選ばれた一員でありそして該二価の基はそれらのヘテロ原子によりベンゼン核に結合しており、

R3は水素及びメチルから成る群から選ばれた一員であり、

m及びnはそれぞれ1乃至2の整数でありそして基<省略>は、

<省略>

(式中、R7及びR8は水素、ハロ、低級アルキル及びトリフルオロメチルから成る群よりそれぞれ独立的に選ばれ、YはO及びSから成る群より選ばれた一員であり、Mは水素、低級アルキル及び低級アルキルカルボニルから成る群よる選ばれた一員であり、そして破線はピペリジン核の3及び4位置の炭素原子間結合が適宜二重結合であつてもよいことを示し、ただしYがSである場合にはピペリジン核の3及び4炭素原子間は単結合でありそしてMは水素であるものとする)

を有する基である〕

で示される1-(ベンゾアゾリルアルキル)ビベリジン誘導体及びその医薬的に許容し得る酸付加塩から成る群より選ばれた化合物。

2 5-クロロ-1-{1-〔3-(1・3-ジヒドロ-2-オキソ-2H-ベンゾイミダゾール-1-イル)-プロピル〕-4-ピペリジニル}-1・3-ジヒドロ-2H-ベンゾイミダゾール-2-オン及びその医薬的に許容し得る酸付加塩から成る群より選ばれた特許請求の範囲第1項記載の化合物。

3 活性成分として式

(Ⅰ)

<省略>

〔式中、R1及びR2は水素、ハロ、低級アルキル及びトリフルオロメチルから成る群からそれぞれ独立的に選ばれ、

Bは二価の基

-N

<省略>

=N-及び-N=CH-、から成る群から選ばれた一員であり、ここでLは水素、低級アルキル、低級アルキルカルボニル及び低級アルケニルから成る群から選ばれた一員でありそして該二価の基はそれらの*ヘテロ原子によりベンゼン核に結合しており、

R3は水素及びメチルから成る群から選ばれた一員であり、

m及びnはそれぞれ1乃至2の整数でありそして基<省略>は、

一式から成る群から選ばれた一員であり、ここで

<省略>

(式中、R7及びR8は水素、ハロ、低級アルキル及びトリフルオロメチルから成る群よりそれぞれ独立的に選ばれ、YはO及びSから成る群より選ばれた一員であり、Mは水素、低級アルキル及び低級アルキルカルボニルから成る群より選ばれた一員であり、そして破線はピペリジン核の3及び4位置の炭素原子間結合が適宜二重結合であつてもよいことを示し、ただしYがSである場合にはピペリジン核の3及び4炭素原子間は単結合でありそしてMは水素であるものとする)

を有する基である〕

で示される化合物又はその医薬的に許容し得る酸付加塩を含有することを特徴とする制吐剤。

4 該式(Ⅰ)化合物又はその医薬的に許容し得る酸付加塩の制吐的有効量と不活性担体物質とを含有して成る特許請求の範囲第3項記載の剤。

5 投与単位当り制吐的有効量の式(Ⅰ)化合物又はその医薬的に許容し得る酸付加塩を、医薬的担体との混合物として含有して成る投与単位形態の特許請求の範囲第3項記載の剤。

6 医薬的担体が固体の摂取可能な担体である特許請求の範囲第5項記載の剤。

7 医薬的担体が液体の摂取可能な担体である特許請求の範囲第5項記載の医薬的組成物。

8 医薬的担体が非経口的使用に適した無菌の液体である特許請求の範囲第5項記載の医薬的組成物。

9 投与単位当り制吐的有効量の5-クロロ-1-{1-〔3-(1・3-ジヒドロ-2-オキソ-2H-ベンゾイミダゾール-1-イル)プロピル〕-4-ピペリジニル}-1・3-ジヒドロ-2H-ベンゾイミダゾール-2-オン及びその医薬的に許容し得る酸付加塩を、医薬的担体との混合物として含有して成る投与単位形態の特許請求の範囲第5項記載の剤。

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